銀座4丁目交差点。昔、あのあたりは「尾張町の十文字」と呼ばれていたそうだ。初めてそれを知ったのは戦後の銀座を舞台とした浅田次郎さんの「地下鉄に乗って」を読んだ時の事だった。
実際には見た事もない、好きな街の昔の風景が目に浮かぶ。涙腺を刺激するそのストーリー展開に夢中になって読んだものだ。その浅田次郎さんをインタビューすることになった。
あれは昨年春の事だった。インタビューの事前準備としては当然だが、浅田さんの作品を読みまくる日々を過ごし、いよいよその日を迎えた。約束の時間の1時間前に到着した私は、そのまま待ち合わせのロビーラウンジで「地下鉄に乗って」を再び読んだ。普通なら最新作についてふれるべきだが、銀座を舞台としたこの作品についても是非話して欲しいと思ったのだ。
平日ではあったが帝国ホテル1階のロビーラウンジは、たいそうな賑わいだった。写真やテレビでしか拝見した事のない浅田さんを果たして見つける事が出来るだろうか……。緊張と不安が高まりつつあったその時、携帯が鳴った。浅田さんだ…。
「君、今どこにいるの?」浅田さんからの電話に思わずソファーから立ち上がった。広いラウンジを見渡すと、居るではないか、4、5人の記者らしきグループに囲まれた浅田さんがこっちに向かって手を振ってくれていた。
今日は沢山の取材を受けているようだ。そしてついに私の順番となった。与えられた時間は30分。記者と入れ替わりで席に着くと早速、インタビューを開始した。神田で生まれ育ったという浅田さんにとって銀座は庭のようなものらしい。私が知らない昔の銀座の話を小説ではなく、それを書いた浅田さんが目の前で話してくれている。なんて幸運なんだろう!感動しながらも話は自然と小説「地下鉄に乗って」へと展開した。
「私、あのお話がとても好きなんです。」そう言った時、浅田さんの目が輝いた。「あれ、いいでしょう!」どうやら浅田さんにとってもお気に入りの一冊だったようだ。「和光の前の交差点はね、昔は尾張町の十文字って言ったんだよ。」と、懐かしそうに子供の頃の銀座の思い出を語ってくださった。
「地下鉄に乗って」は1995年に吉川英治文学新人賞を受賞した作品。そしてこの日は2003年の吉川英治文学新人賞授賞式の日だった。私のインタビューの後、浅田さんは審査員としてその会場へと向かわれた。思えば、このインタビューが決った時、立ち寄った銀座の本屋で偶然手にとった「地下鉄に乗って」。なんだか不思議な巡り合わせを感じた。
そんな浅田さんも好んで訪れるいうのが、銀座ウエスト。時代をタイムスリップしたかのような
優雅で、ゆったりとした空間が広がる。ここの大きなシュークリームと珈琲で、静かにゆっくり過ごす銀座の午後は格別だ。
洋菓子舗 ウエスト 銀座本店
住所:中央区銀座7-3-6
TEL:03-3571-1554
営業時間:AM9:00~PM11:00
土曜・日曜・祝日/正午~PM9:00